着付けの先生とマッターホルン

着付けの先生とマッターホルン

地元に小さいけど由緒正しい呉服屋さんがあり、入口横の木の札に「着付け教えます」と書かれた文字。前を通るたびに心惹かれていました。

2020年の夏に小千谷縮((おぢやちぢみ)とは、新潟県で作られる麻100%の織物表面に凹凸がある織物で肌あたりが涼しいと言われる夏の着物の代表・国の重要無形文化財の技術でもある)をさらりと着られるようになりたいと思って、思い切ってお店の扉を開きました。

もう80歳代にさしかかるであろうご主人に、「小千谷?それなら9月までだね。急がないと間に合わない。うちの妻(先生)はミスユニバースの着付けも担当したくらい優秀だよ。早くいらっしゃい」と言われました。

早々に先生に会い正統派の着付けを習い始めました。各々の人間の体に沿った着付けを教えてくださり納得するばかり。しかし、とにかく後ろで帯を結ぶのが難しい!!半ば諦めかけたりしながらも、細々と着物を着る機会を得ていますが、未だ自信がありません。

誉さんのひとりごと

習う以外でも家族が結婚式にお呼ばれした際に着付けてもらったり、私もパーティで着る色紋付を着付けてもらったり、何回かお願いしていました。

先生の着付けは着崩れない。乱れない。とても美しく、かつ動きやすい着付けをされる方です。人間工学に基づいた着付けと言えます。

誉さんのひとりごと

お会いした頃から物忘れがひどいからと、なんでもメモに書いて忘れないようにしていらっしゃいました。70歳代ではありますが、数年前にもマッターホルンに登頂された程の登山好きで、若い頃は商社に勤め、山岳部に入り地形図も読み解ける聡明な方です。

しかしこの最近、何回も何回も同じことを聞く、話すことがあり、これはもしかしたら痴呆という症状か、、、と感じることが多くなりました。更に私のことを忘れているようだとも感じはじめました。

しかし、着付けの腕は衰えない。着物の知識も衰えていない。とにかく近々のことが覚えていられないようなのです。

先日も預けた着物をきちんと仕舞ってくださり、ご本人もどこに仕舞ったか思い出せずに一緒に1時間以上探して見つかるということがありました。そして見つかったこともすぐ忘れてしまい、またきちんとした様子で仕舞いはじめました。

その時はよりご病気が進行しているなと寂しく感じたのですが、ご家族がとても普通の対応なのです。ご主人も慌てていない。よく理解して、受け入れて、日常になっているのです。

先生に着付けてもらうことや習うことはもう無理ではないかと頭をよぎりましたが、ご家族を見てただ無理と決めるのはまだ早いなと考え直しました。

受け入れて、先生が苦手とすることはフォローして、そしてできる限り先生に着物のことを教えてもらいたいと考えるようになりました。

先生と会う時は、私は初めて会う人になります。毎回一期一会の心得、それも良い。

元々がきちんとした方なので、出ているものはきっちりと仕舞われる。だから今までは預けていたものでも毎回持ち帰るようにする。そうやって先生にわかりやすい行動をとることで、素晴らしい着付けの技術や着物のお話は聞くことができる。

そしていつか着物のことを忘れてしまったら、大好きなマッターホルンの思い出で幸せいっぱいになってくだされば良いなと願っています。

誉さんのひとりごと

ー画像:スイス大使館よりー

近く母の日や父の日があり、FLYING APARTMENTのウェブストアでも前面に出していますが、決められた日に限らず、感謝の気持ちなどは思いたった時に表すのが良いとつくづく感じた最近の出来事でした。

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